心を育てる「花育」
「花育」というのは、花を育てること、あるいは飾ることを通じて、生命や自然について考えたり、情緒を育んだりするというもので、近年日本で考案されました。その狙いは、花を教材にして人や心を育てようということですから、「食育」の花版だと思えばわかりやすいでしょう。
「花育」が対象としているのは、主に子どもです。都市化や自然破壊が進む日本の子どもたちには、自然や花にふれる機会が急速に減りつつあります。私は学生時代に教育実習をしたのですが、最近の子どもたちの自然に対する無関心には驚かされました。高校生の女の子たちが、花束をもらってもうれしくない、もっと高価な、形として残るものがいいと言ったのです。最近のお母さんたちは、ばい菌や害虫を恐れて、子どもに泥遊びを禁じたり、花を摘んでも、家に入る前に捨てさせたりします。そういったことの影響も大きいでしょう。
しかし子ども時代に、自然や、花などの生きているものにふれることは、いのちに対する感性や自然への感謝を育む上でとても大切です。「花育」は、今のようなご時世の中で、子どもたちに豊かな感性を取り戻させようと、始められたものなのです。
「花育セルフセラピー」とは
この「花育」の考え方に、生け花やフラワーアレンジメント、心理学の行動療法の考え方を融合させて考案したのが、「花育セルフセラピー」です。
レッスンでは、私が用意した材料を、生徒に自由にアレンジしてもらっています。使う花は生花もしくはプリザーブドフラワー。花を生けるのは、剣山、サハラ、またはオアシスです。これに加えてリボンやワイヤー、折り紙、つる、パール、ビーズ、羽毛など、日によってさまざまな材料を使います。ときには土台から作ってもらう日もあります。
月によってはハロウィン、クリスマスなど、大まかなテーマを設けることもありますが、見本はあえて提供していません。それにとらわれては意味がないからです。「花育セルフセラピー」のアレンジには、「正解」もなければ、「上手、下手」もありません。とにかく無制限の自由の中で、思い思いに自分の心の世界を表現していく。それがレッスンの一番の目的です。
カラーセラピーとマインドフルネス
「花育セルフセラピー」は、心を育む、心を癒すといったことを大きなテーマとしている一種の行動療法です。レッスンには「カラーセラピー」や「マインドフルネス」といった心理学的なものも取り入れています。
「カラーセラピー」とは、色彩と心の関係を研究したものです。生徒の作ったアレンジの色彩には、その人の現在の心境が表れるので、必要に応じてそれをお伝えしたり、アドバイスをさしあげたりすることもあります。
「マインドフルネス」とは、簡単に言うと瞑想のこと。アレンジを始める前に少し時間をとり、呼吸法をしたり、点描画を描いたりしながら心を落ち着けていただいています。日常生活を引きずったままの頭では、その人自身の創造力が十分に発揮されないからです。
「花育セルフセラピー」の効果と反響
「花育セルフセラピー」によって育まれるものは、主に三つあります。
一つめは「創造力(想像力)」。見本も決まりごともなく、自由に花をアレンジする中で、人間が本来生まれ持っている創造力が活性化してきます。特に発想の柔軟な子どもたちのアレンジには、大人には想像もつかない面白さがあり、いい刺激になります。
二つめは、一つの作業に集中する中で育まれる、芯の通った「ぶれない自分」です。心の悩みを抱えている生徒も、花と向き合う時間の中で癒され、自分本来の強さを取り戻しています。「優しい気持ちになれた」という感想もよく聞きます。
三つめは、自分の創造力を存分に生かして作品を作ったあとの満足感と、自己肯定感です。同じ材料を使っていても、一人ひとりの作品はまったく違うものになります。生徒たちはいつも、ほかの作品のよさを大いに認めながらも、「私のが一番」と自画自賛しながら帰られます。その表情は、レッスン前にはなかった輝きと自信に満ちています。
「花育セルフセラピー」では、「みんなが一番」でいいのです。お互いに認め合い、自分のことも認めてあげられる。その幸せ感をみなさんに味わっていただき、家族や友だちにも広めていただきたい。それが私の願いです。